海士町の島ファクトリー所属で、ホテルEntôで働かれている、浅川さんにお話を伺いました。
私の思い出の物は、甲州印伝の名刺入れです。これは私が京都のホテル開業に携わっていた時に、たまたま寄ったお店で見つけたものなんです。鹿革に漆で模様が描かれたもので、赤とベージュの麻の葉模様は京都限定だそうなんです。東京で生まれ、山梨で育った私にとって、山梨の伝統工芸が京都で別の形として並んでいるのを見たとき、すごく惹かれたんです。仕事でいつも持ち歩く名刺入れだからこそ、自分が愛着を持っている土地の工芸品を使い続けたいと思って。仕事で使う機会も多いので、名刺入れからルーツを語ることができたりするんです。
京都でのホテル開業ではどのようなことが印象に残っていますか?
そうですね。もともとは、ずっとデザイン関係の仕事をしてきました。京都では、大学の研究室を経てITの会社でアートディレクターをしていたのですが、友人からの紹介をきっかけに新しい分野に挑戦しました。そこで初めてホテルの”マーケティング”に携わることに。一見、マーケティングとデザインはまったく違う分野に見えるのですが、やってみると共通している部分も多かったんです。また、京都で働いていた頃は、どんな場面でもつながりがとても大事だと感じましたね。仕事の打ち合わせのアポ取りでも「どなたのご紹介ですか?」と聞かれることが多くて。最初はとても驚いたのを覚えています。東京のように電話一本では進まず、人と人との関係を通して信頼を築く、そんな文化が根づいているなと思いました。
マーケティングとデザイン、どんな部分が似ていると感じましたか?
どちらも「問題を解決するための手段」という点で同じだと思っていて。デザインもマーケティングも、情報を集めて整理し、方向性を決めて形にしていく。その流れ自体は変わらないんです。そのために、“何を解決したいのか”“誰にどう届けたいのか”を考えるんです。私はずっと、デザインは”情報を整理して再構築するプロセス”だと思っていて、その考え方は、マーケティングにもそのまま通じていたなと感じています。最初に「目的」や「課題」を見つけるところから始まるんです。だから私は、どの分野でも“デザインするように考える”ことを大切にしてきました。デザインって、見た目を整えることじゃなくて、状況を観察して、そこから最適な形を導き出すことなんです。
デザインの分野に関わられる中で、浅川さんが大切にしていることは何ですか?
「素直な目」と「オタク心」です。どんなことにも、先入観を持たずにフラットに見ること。そして、気になったものはとことん掘り下げること。子どものような素直さと、オタクのような探究心。その二つがあれば、どんな分野にもデザインは息づいていると思います。

