お金のなる木

お金のなる木

語り手:涌井さん
聞き手:原田陽人
2026年03月11日

この「お金のなる木」ですね。私が諏訪苑(海士町の特養ホーム、グループホーム)に勤めている時に、地域の方から15年前の夏頃にいただいたものなんです。「諏訪苑がずっと残っていくように」と“思い”を込めて譲ってくださいました。でも、その翌年にうっかり真冬なのに外に出しっぱなしにしてしまい、枯らしてしまったんです。たった2枚の葉っぱしか残らなくて。でも、せっかく地域の方からいただいた“思いのこもった”木を諦めるわけにはいかず、大事にこうして育て続けています。いつか大きくなってまた諏訪苑にある大きな鉢に戻すのが夢なんですよね。

働き始めた頃を思い返すと、どのようなことが印象に残っていますか?

正直、1年目はずっと「もう辞めたい」と思っていました。実際の介護の現場は想像以上に過酷で、食事介助や入浴介助、排泄介助の繰り返し。何のためにやっているのか、分からなくなるほどでした。

でも、その時に海士町で暮らそうと思った原点に立ち返ったんですよ。素晴らしい景色や優しい人が溢れた「この島で亡くなりたい」という“思い”を改めて思い出して。でも、悲しいことにその時は、自分が勤めている「諏訪苑では、死にたくない」とも思ってしまいました。それなら、自分が諏訪苑を変えて、「ここで最後を迎えたい」と思える場所にしようと思ったんです。

具体的に、どのようなことを変えられましたか?

そうですね、本当にたくさんのことが変わりましたが、例えば食事介助です。以前は、4人の利用者さんに半円状になっていただき、職員が立ったまま同時に食事介助をしていました。効率的ではあるけど、利用者さんの“本当の想い”を尊重するなら、「その形でいいのか」と疑問を持ち「一人ひとり、ちゃんと向き合って食事介助をする形」に変えました。入って間もない新人が、生意気にも先輩方に意見していく。本当に優しい先輩方や仲間に恵まれていたからこそ、一緒に変えていくことができ、感謝しかありません。

涌井さんが大切にしている「想い」とは何でしょうか?

結局、私が大切にしているのは「人の想いを受け継ぐこと」です。このお金のなる木も、地域の方の“想い”を受け継ぎ、大事に育て続けています。色々な利用者さんと関わっていく中で、福祉を守ることは、故郷を守ることだと気づきました。福祉が整っていない場所では、安心して暮らすことは難しい。だからこそ、色んな方の“想い”が詰まったこの故郷の福祉を、絶対に失わせたくないと思っています。

涌井

涌井さん

この物語をシェア:

モノとカタリ

島根県海士町で始まった「モノとカタリ」プロジェクト。 思い出のモノを通して、島に住んでいる人・訪れた人の「人生の物語」を聞きます。

海士町について

島根県隠岐郡海士町
日本海に浮かぶ、人口紏2,300人の小さな島。島の全体が国立公園に指定されるほど、自然豊かな島。
(詳しくはこちら)

運営者情報

モノとカタリ プロジェクト